当時、大学3年生だった私は、初めて付き合った彼女との恋に破れ、四畳半一間の汚い下 宿で一人寂しく自棄酒を飲んでいた。飲んでいた酒は、実家からもらってきたサントリー オールド、所謂ダルマ瓶である。 元々、酒には自信があり、失恋で自暴自棄になっていた事もあり、大瓶(720ml入)で 1/3程残っていたウイスキーはあっという間に飲み干されていた。 どこかに他の酒がないかと部屋中をゴソゴソと捜したけれと見つからず、仕方なく酒屋に 調達しに行くことにした。 酒屋では、やはりサントリーオールドの中瓶を購入した。そのまま素直に下宿に戻れば事 件は起きなかったであろう。しかし、その日の私は人恋しさからか、誰でもいい友達の下 宿を訪ねる事にした。 バス通りをウィスキーをラッパ飲みしながら心当たりの友人の下宿を訪ね歩く。その日に 限って何故かみんな留守にしている。30分程フラフラしただろうか、Eの下宿に辿りつ いた。Eの部屋は2階、あかりが漏れている。 ほっとした私はEの部屋に入れてもらい、「E〜、寂しいよぉ〜、一緒に飲もうよぉ〜」 と切り出した。 私の記憶はその時点でプツリと途切れる。 Eの部屋に辿りつくまでに、かなりの量のウィスキーをストレートで飲んでいた。しかも、 30分に渡る適度な運動。無理もない、完全に許容量を越えていた。 以降、意識を取り戻すまでの話しは、Eと、Eが救助を要請したSから伝え聞いた話だ。 Eの部屋に辿りついた私は、部屋に入り上記の様に切り出すなり、「気持悪りぃ」と言っ て顔を天井を見る形で真上に向けて正座したらしい。その数秒後、そのままの形で、胃の 内容物を、まるで噴水のごとく吐き出したそうだ。部屋はゲロまみれ、私の顔もゲロまみ れ、しかも泥酔状態。困り果てたEは、とにかく私を下宿に帰すべく、Sに救援要請をし たようだ。 (その後、この光景は、「座りゲロ」の伝説と化して、後輩の間で後世に語り継がれる事 となる。) Sが駆け付け、Eと2人で私を真中に挟み腕を肩に回させた格好で私を部屋から運び出し、 Sの車へと向かう。途中、階段で事件が起きた。私が急に暴れ、ほぼ下まで降りていたの で大惨事には至らなかったが、バランスを崩し3人で階段から崩れ落ちたらしい。私は、 「痛ぇ〜」とか騒いだらしいが、二人は黙殺した。 こうして、なんとか私を下宿に運び終えて帰ろうとすると、私はちゃっかりこう言ったと いう。「明日、どうしても出なきゃいけない講義があるから起こしにきて。」 翌朝目覚め、意識が戻った。無性に喉が乾く。なんだか足もズキズキ痛む。夕べの事はほ とんど覚えていない。こんな事は初めてだった。とにかくのどの渇きを癒すため、下宿か らほど近い道にある自動販売機にポカリスエットを買いに行った。自販機からポカリの缶 を取り出していると、そこにSが原付に乗ってやってきた。「おい、大丈夫か?」とS。 「えっ、なんの事?」と私。 「おまえ、大事な講義があるから起こしに来いって言ってただろ?」「へ?」「まあ、い いや、大学行けよ!」そう言い残すとSは去って行った。 部屋に戻り、ポカリをぐびぐび飲んでいると、テーブルの上に置かれたスーパーの袋が目 にとまった。なんだろう? 結構ずっしりとするものが入っている。早速あけて見てビッ クリ! なんとそこにはゲロまみれの私のトレーナーが入っていたのだった。 その後、EとSから事情を聞き、自分でも驚愕。初の泥酔体験であった。 その日、大学から戻った私は、ゲロまみれのトレーナーを洗濯した。 トレーナーにこびり付いたゲロと供に、彼女への思いもまた洗い流したのであった。
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